今年のシーズンイン。
例年よりも少しだけ早いスタートになる。
去年はシーズン中盤からの参戦だったが、今年は違う。
初戦から、F.O.R.Vの一員としてこのレースに立つ。
もう、後ろを振り返ることはない。
前のチームに戻ることも、関わることもないと決めた。
その決意の表れとして、手元に残っていたジャージはすべて処分した。
今頃はもう、焼却施設の中で灰になっているだろう。
だからこそ、このレースはただの開幕戦ではない。
新しいシーズンの始まりであり、同時に、自分自身の区切りでもある。
ここから先は、すべてが“今の自分”で積み上がっていく。
その最初の一歩として、このツールドかつらおに臨んだ。
目次
■ 装備とセットアップ
普段のレースではLOOK 785 Huez RSを使用しているが、今回はあえて別の選択をした。
コースは山岳比率が高く、落車リスクや機材トラブルの影響も無視できない。
今後のレーススケジュールを考え、万が一にも決戦機材を失うリスクは避けたかった。
その判断から、今回は練習機であるELVESを投入している。
この日は初夏を思わせる気温。
ウォーミングアップ時点ではアームカバーを着用していたが、走行前には外して問題ないと判断。
結果として、スタート時点の体温管理は適切だった。
■ ウォーミングアップ
今回は固定ローラーを持ち込み、事前にしっかりと身体を起こす形を取った。
まずはL1で15分ほど流し、筋温と心拍を徐々に引き上げる。
その後、L4~5域まで引き上げて心拍を180付近まで到達させる刺激を2本。
ここで一度ピークを作り、再びL1に落として心拍を整えながらスタートを待つ。
ワンピースに着替えた直後はやや肌寒さを感じたが、アップが終わる頃には気温も上がり、身体の反応も良い。過不足のない、ちょうど良い仕上がりだった。
■ 当日までの準備
今回のレースに向けては、これまで試してこなかったアプローチも取り入れている。
トレーニング管理にはIntervals.icuを活用し、ピーキングの設計にはChatGPTも併用。
一週間前から当日にピークが来るよう、負荷と回復のバランスを調整した。
特に金曜日の時点では脚の回転が非常に軽く、コンディションの良さをはっきりと感じられていた。
補給面では木曜日からカーボローディングを開始。
今回のレースは約28kmと比較的短時間で終わるため、体内に蓄えたエネルギーだけでも十分にカバー可能な設計としている。
総合的に見て、コンディションは良好。
少なくともスタートラインに立つ時点では、「準備はできていた」と言える状態だった。
■ レース展開
このコースは一見ロードレースの形をしているが、実態はかなりヒルクライム寄りのレイアウトだ。
どこで耐えて、どこで勝負するか。その組み立てがすべてを左右する。
本来であれば、描くレースプランはシンプルだった。
区間Aでクライマーに対してある程度のアドバンテージを作り、区間Bの登りは抜かれるだろうけど耐える。
区間Cの下りで差を詰め、区間Dで再び追い越されるのは織り込み済み。
その後の区間Eは差が付きにくいと割り切って我慢し、最後の区間Fで勝負を仕掛ける。
つまり、このレースの鍵は「区間Aでどれだけ貯金を作れるか」に尽きる。
ただ、その前提がツールドかつらおでは成立しなかった。

| 区間 | 距離 | 獲得標高 | 平均勾配 |
|---|---|---|---|
| 区間A … パレード | 5.2km | -105m | -2.0% |
| 区間B … 緩斜面クライム | 8.8km | 294m | 3.3% |
| 区間C … 緩斜面ダウンヒル | 3.3km | -112m | -3.3% |
| 区間D … 林道ヒルクライム | 2.7km | 212m | 7.8% |
| 区間E … 林道ダウンヒル | 2.9km | -215m | -7.3% |
| 区間F … 平坦 | 4.6km | -75m | -1.6% |
区間A
スタート直後の区間Aは5.2kmのパレード区間。
緩やかな下りで本来ならスピードに乗せやすく、展開を作れる数少ないポイントだったはずが、完全に統制された走行で終わる。
アタックも何もなく、ただ流れるだけの時間。
ここで優位性を築けなかった時点で、レースプランは土台から崩れていく。
それでも、少しでも有利な位置を確保しようと道幅が狭くなる前に前方へ上がった。
この判断自体は悪くなかったと思う。
ただ、ここにこの日のコンディションが重なる。
季節の変わり目で喘息の症状が出やすい状態。
そこにモトバイクの排気ガスが加わる。
前方に位置取ったことでそれをまともに受け続ける形になり、区間後半には咳が出始めてしまった。
一度出始めると完全には止まらない。
軽度とはいえ、呼吸のリズムは確実に乱される。
後方へ少し下がることで多少はマシになったものの、この時点で“削られた状態”でレースは進むことになった。
区間B
8.8kmのヒルクライムに入ると同時にリアルスタート。
モトバイクがふかしながら上り始めるので、ここでも排気ガスは厳しい。
それでもスタート直後のダッシュにだけは食らいつく。
ここで離れれば終わるという判断だった。
問題はその後。
緩斜面に入ったタイミングで、トレイン後方で脚を休めようとローテーションを外れて少し下がる。
この判断が結果的に致命傷になる。
1分前にスタートしていたマスターズの集団と合流し、トレインはさらに巨大化して加速。
わずかな位置取りの差がそのまま中切れにつながる。
しかも区間は向かい風。
ギャップを埋めるのが極端に難しい条件だった。
短い下りでなんとか前の小集団には追いつくものの、メイン集団との差はおよそ300m。
この時点でレースの主導権からは外れてしまった。
最後の上りでは耐えきれず、さらに順位を落とす。
区間C
3.3kmの下り区間。
唯一、自分の強みが活きる場所だ。
コーナーも比較的緩く、機材差も出にくい。
ここで区間Bで取り残された選手たちを一気に回収する。
少しでも前に近づくための“回収区間”としては理想的に機能した。
ただし、ここは差を詰める場所であって、決定的にひっくり返す場所ではない。
区間D
2.7kmで212mを登る平均7.8%のヒルクライム。
このレースの核心。
ここはもう、完全に脚の勝負になる。
調子の良い時でも単独で10分は切れないセグメント。
クライマーに対して分が悪いのは分かっている。
それでも「1分先行して12分ペースで耐える、そして最後の平坦区間で1分を取り戻す」という形で組み立てていた。
展開はほぼ想定通り。
中腹で後続に捕まり、徐々に抜かれていく。
それでも山頂付近まで前の小集団の姿は見えていた。
ここまではプラン通り。
ただ、その“見えている差”は決して楽に埋まる差ではない。
区間E
林道の下り。
ここは無理をする区間ではない。
テクニカルでリスクが高く、攻めても差は付きにくい。
加えて制動力の差が出やすい状況。
安全に、確実に抜けることを優先する。
ここで落車でもすればすべてが終わる。
この判断は冷静だったと思う。
区間F
最後の4.6kmの緩やかな下り。
ここが唯一、自分の土俵。
県道に入ってすぐ、単独で走っていた2人を吸収。
3人でローテーションを回せば前の小集団は見える位置にいる。
小集団に追いついて順位を上げられる可能性はあった。
ただ、ここで誤算。
ローテーションが回らない。
前に出る気配はないが、離れもしない。
いわゆる“ぶら下がり”の状態。
結果として速度は上がり切らず、集団との差は埋まらない。
自分一人で引き続けるには距離が長すぎる。
かといって待てば終わる。
最後の勝負所は、静かに潰えた。
ゴール前、1人は振り落とし、もう1人は抑えきってフィニッシュ。
■ 結果と反省
結果は63人中19位。
数字だけ見れば悪くないが、内容としてははっきりしている。
このレースは、登りで決まった。
そして何より、区間Aでプランが成立しない時点で、勝ち筋はほぼ消えていた。
ヒルクライムを割り切り、平坦で勝負する方向にシフトしてきた自分にとって、このコースはあまりにも正直だった。
クライマーやオールラウンダーと同じ土俵で登りを戦う以上、さすがに簡単にはいかない。
結局のところ、このコースで上を狙うなら答えは一つ。
登れるようになるか、登りで耐え切れるだけの武器を持つか。
今回の19位は、その現実をきっちり突きつけてくる結果だった。
■ 総括(Summary)
順位:19位/63人
記録:57:40
■ 概要(Overview)
大会名:第12回 ツールドかつらお
開催日:2026年4月19日
天候:晴れ(気温 15℃・風速 NW6.8 km/時)
出走カテゴリー:Cクラス
バイク:ELVES VANYAR RIM / R8000
足回り:BORA ONE 50 / 5000GP+TPU (前5.5bar、後6.0bar)
装備:F.O.R.Vワンピース / RC902
■ コース解析(Circuit Analysis)
全長:約28.4km (内5.2kmパレード)
標高差:約631m
走行方向:反時計回り
路面:生活道路、林道
■ 出力分布・ゾーン解析(Power Distribution)
Z1 (回復走):37%
Z2 (耐久走):12%
Z3 (テンポ):13%
Z4 (ハード):15%
Z5 (VO2 Max):12%
Z6 (無酸素) : 8%
Z7 (神経筋パワー) : 4%
■ 補給・身体マネジメント(Nutrition & Pacing)
補給食内容:ボトル半分程度の水
出走前の食事:パン、出走前にカフェイン200mg+150mg
脚攣り対策:無し
■ ペース低下の要因分析
今回のレースにおいて、想定よりもペースが上がらなかった要因はいくつかある。
ただし、これらは結果を覆す決定打ではなく、「どこまで詰められたか」に影響した要素として整理しておきたい。
呼吸器系のコンディション
前日の診断で、季節の変わり目ということもあり、軽度の喘鳴が確認された。
主治医からは「無理をしないように」との指示。
実際に負荷確認として600m・約7%の坂をFTP比120%程度で踏んだところ、軽い発作が出た。
この時点で、当日のパフォーマンスには制約があることは明確だったため、サイコンのFTP設定を-10%に調整して出走した。
結果として大崩れは避けられたものの、レース中の高強度域、とくに立ち上がりや登坂での余裕は確実に削られていた。
ただし、パフォーマンスのマネージメント自体は悪くなかったと考えている。
Intervals.icu上ではeFTPが266Wと表示されており、事前に設定した「FTP-10%」という目安とほぼ一致していた。
結果として、当日のコンディションを踏まえた出力コントロールは概ね想定通りに機能していたと言える。
大きく踏み外すことなく、最後まで走り切れている点から見ても、少なくとも“出力の管理”という意味で、今回は成功だった。
当日のアクシデントによる怪我
家を出る前に右足の親指を負傷。
皮膚が厚めにえぐれる形で損傷し、出血自体は止まったものの、痛みは残ったままだった。
これにより、ペダリングにおける引き足の動作が制限される。
結果として、特に高トルク域での効率が落ち、脚の消耗も早まる形になった。
意識的に回避すれば走れないことはないが、「踏める状態」とは言い難いコンディションだった。
機材選択
今回のコースは登坂比率が高く、リスク管理の観点から決戦用バイクではなく、練習用のELVESを投入している。
性能差として劇的なものはないが、自分の好みに対してはややしなやかさのあるフレームであり、剛性の高いバイクと比較すると踏み応えに違いを感じる。
加えてリムブレーキ仕様のため、テクニカルな下り区間では制動面での安心感に差があり、結果的に進入速度やリリースのタイミングに影響が出る。
わずかな差ではあるが、積み重なればタイムには表れる要素ではある。
余談だが、数年前に「所詮止まるのはタイヤなんだからリムとディスクで制動距離なんて大きく変わらない」って言ってた残念な奴を思い出す。
加えてDURA-ACEもULTEGRAと大して変わらないと、使った事もないのに豪語している。
完全に負け惜しみだ。
もっとも、これらの要因をすべて排除できたとしても、今回の結果が劇的に変わったかと言われればそうではない。
せいぜい3分縮めてシングル順位に届いたかどうか、というラインだろう。
少なくとも、表彰台争いに絡めたとは考えにくい。
結局のところ、このレースの本質はやはり登坂力にある。
そこに対してどれだけ戦えるかが、順位の上限を決めている。
今回の要因は、その中で「どこまで粘れたか」を左右したに過ぎない。
なお、こうした内容はあくまで自己分析としての整理に過ぎない。
対外的な発信では、あえて触れない事にしている。
結果に対する評価はシンプルであるべきだし、外から見えるのはあくまで順位だけで十分だ。
そして何より、言い訳は見苦しい。
どれだけ要因を並べたところで、リザルトが変わるわけではない。
今回の順位が実力であり、それ以上でもそれ以下でもない。
だからこそ、このペース低下の要因分析は次に活かすためのものとして、ここにだけ残しておく。
二度と葛尾は出走しないと言っていたが、登坂力を鍛え直して挑戦してみたいと思う。
ただ、40代後半で20代と戦うのは厳しいから、マスターズで出たいな…
おわりに
レースを終えて帰宅し、片付けまで一通り終えた頃。
時間も体力もまだ残っていたので、いつもの白坂周回へ向かってみた。
不思議なもので、あれだけ気になっていた親指の痛みはほとんど感じない。
呼吸も落ち着いていて、レース中に付きまとっていた違和感は消えていた。
3周回のみではあるが、実際に踏んでみると感触は悪くない。
PRには届かなかったものの、平均33.3km/hと十分に納得できるペースで回ることができた。
少なくとも、脚自体は仕上がっていた。
だからこそ、この結果はより明確だ。
今回の19位はそのまま受け止める。
その上で、この感触は次に繋げていく。
シーズンはまだ始まったばかりだ。
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