実は今回が、自分にとって初めての富士ヒルでした。
富士ヒルといえば、一年かけて準備を重ね、自分のベストタイムやリング獲得を目標に挑戦する大会というイメージがあります。
でも、自分は最初からタイムを狙うつもりはありませんでした。
チームに誘ってくれた恩人から、「次の富士ヒルでアシストをお願いしたい。」
そう声を掛けてもらい、約1年前から約束していた一日だったからです。
実は、この話をいただかなければ、自分が富士ヒルを走ることはなかったと思います。
スタートラインに立った時、自分のタイムや結果は頭にありませんでした。
考えていたのは、ただ一つ。
チームの結果だけが全て。
1年前に交わした約束を果たし、エースを少しでも良い形でゴールまで送り届けること。
そのためだけに、自分はこの富士山を登りました。
目次
必要な時だけ前へ出る
任された役割はとてもシンプルです。
- ルーラーとエースの間が空いたら埋める。
- 埋まったらすぐに下がる。
- 後ろから選手が来たら前へ伝える。
- 最後の平坦はルーラーと入れ替わって前を引く。
基本はエースの少し後ろで待機し、ルーラーとの間が空いた時だけ前へ出てブリッジを行いました。
そして、間が埋まったらすぐに元の位置へ戻る。
というのも、自分がそのまま前に残ってしまうと、ルーラーが作っている一定のペースを乱してしまったり、エースにも余計な脚を使わせてしまう可能性があります。
だからこそ、必要な時だけ前に出て、仕事が終わったらすぐに下がる。
余計な事はしない。
そんな黒子役に徹することを心掛けていました。
周りを見るのもアシストの仕事
もう一つ意識していたのは、周囲の状況を伝えること。
後方から勢いよく上がってくる選手がいた時には、「右から来ます。」
と前へ伝え、自分が前へ出る時や抜く時も必ず一声掛けるようにしていました。
また、エースは左側から抜かれる状況をあまり好まないと聞いていたので、自分が後方へ下がった時は自然と左後方を意識してポジションを取るようにしていました。
大きなことではありませんが、少しでも安心して、自分の走りだけに集中してもらえたらと思っていました。
万が一に備えて
今回、実は機材面でも自分にしかできない役割がありました。
エースのバイクはR9100の11速。
そして、自分のバイクも同じくR9100の11速。
チームメンバーの多くはすでに12速化されていて、ホイールをそのまま使い回せるのは自分だけでした。
もちろん、何事もなく終わるのが一番です。
でも、もしエースがパンクしたら、自分のホイールを渡してでも先へ行ってもらう。
そんなことも考えて、普段なら積まないようなパンク修理キットなども持ってスタートラインに立ちました。
結果的にそれらの出番はありませんでしたが、「使わなかったから良かった」と思える装備だったように思います。
タイムを狙うだけなら少しでも軽くしたいところですが、この日は自分のレースではありません。
何かあった時の保険も含めて、アシストの役目なんだろうなと考えながら走っていました。
ルーラーの凄さを実感
今回、一緒に走っていて一番驚かされたのはルーラー役の方でした。
本当に淡々と、ずっと同じペースを刻み続けているんです。
勾配が変わっても慌てることなく、終始FTPの3倍程度を維持。
後ろから見ていて、
「また3倍。」
「まだ3倍。」
そんな感じで、本当に安定した走りでした。
今まで「自称ルーラー」という人は何人も見てきました。
でも、一定の出力を刻みながら、周りの状況も見て、エースが一番走りやすいペースを最後まで崩さない。
そんな本当のルーラーを間近で見たのは、今回が初めてだったように思います。
自分自身も終始FTPの3倍程度、心拍も150~160bpmくらいで安定していて、体調はかなり良かったように思います。
おかげで周りを見る余裕もあり、状況を把握しながら落ち着いて動くことができました。
最後の平坦は難しかった
唯一、「もう少し上手くできたかな」と感じたのは最後の平坦区間です。
ルーラーと交代して前に出たものの、エースとの距離感を保ちながら一定のペースで引き続けるのが思っていた以上に難しく、少し車間を空け過ぎてしまった場面もあったように思います。
ちょうどその頃はゴール付近が濃い霧に包まれていて、視界もあまり良い状況ではありませんでした。
前だけでなく後ろも気にしながら走るには、なかなか難しいコンディションだったように感じます。
前を引くこと自体はできても、「後ろが一番楽になる速度を作る」というのはまた別の技術なんだと、実際にやってみて勉強になりました。
約束を果たせたかな
それでも、恩人から任されていた役割は、大きなミスなく果たせたのかなと思っています。
普段は自分のタイムや順位を意識して走ることが多いですが、誰かを支える立場で走るレースは、思っていた以上に奥が深くて面白いものでした。
富士ヒルという大会の見え方も、きっと一人で走っていたら違っていたと思います。
エースが走りやすいように周りを見て、ルーラーが作るペースを乱さないよう必要な時だけ前へ出る。
そして、もしもの時には自分の機材を差し出せるよう準備をしておく。
派手さはありませんが、そんな役割にも確かな面白さがありました。
そして何より、約1年前に交わした、「次の富士ヒルでアシストをお願いしたい。」
という約束を、無事に果たすことができたこと。
初めての富士ヒルは、自分のタイムよりも、その約束を大切にした一日になりました。
おまけ ~奥さん、初めての富士ヒル~
実は、今年の富士ヒルにはもう一つ思い出があります。
それは、奥さんにとっても初めての富士ヒルだったこと。
……というより、人生初レースが富士ヒルでした。
もともとは応援がてら一緒に来て、会場の雰囲気を楽しむくらいの予定だったのですが、去年のチーム忘年会で、「せっかくだし、走ってみたら?」
と声を掛けてもらったことがきっかけでエントリーすることになりました。
もちろん、それまでレース経験は一切ありません。
初めて長い登りを経験するために那須岳へ行ったり、止まらずに一定ペースで走り続ける練習として林道の周回コースを走ったり。
仕事から帰ってきて、「今日はZwiftやるね」とローラー台に向かう姿も、去年までは想像もしていませんでした。
自分は今回、エースのアシスト役。
レース中は一緒に走ることも、途中でサポートすることもできません。
だからこそ、できることはスタート前まで。
バイクの整備をして、少しでも軽く走れるようにチューブをTPUへ交換したり、ポジションや変速を確認したり。
走り出してしまえば、あとは本人を信じるだけでした。
当日は途中で濃い霧に包まれる区間もあり、初めてのレースとしては決して簡単なコンディションではなかったと思います。
それでも、最後までしっかりと走り切り、2時間10分台で無事にフィニッシュ。
女子の平均タイムくらいと聞いて、自分も思わず安心しました。
初めてのレースが、日本最大級のヒルクライムイベント。
きっと緊張もしたでしょうし、大変だったと思います。
でも、それ以上に、良い経験と良い思い出になったんじゃないかなと思います。
そして、個人的に一番嬉しそうだった出来事がもう一つ。
レース前日、チームのボスから「これ着なよ」と、お古のチームジャージを譲っていただきました。
そのジャージを着て、F.O.R.Vの一員として富士ヒルを走る。
帰りの車内で、「チームの一員として扱ってもらえて、本当に嬉しかった。」
そう話していた姿が、とても印象に残っています。
また、この舞台へ
今回の富士ヒルは、自分にとっては恩人との約束を果たす一日であり、奥さんにとっては人生初めてのレースでした。
タイムや順位だけではない、たくさんの思い出が詰まった特別な二日間になったと思います。
正直なところ、富士ヒルは移動距離もありますし、宿泊費やエントリー費などを考えると、なかなか気軽に参加できるイベントではありません。
実は去年、AJ宇都宮で開催しているAJパーマネントが予想以上の盛況で、スタッフ手当を多めにいただく機会がありました。
決して大きな額ではありませんが、そのおかげで今回の富士ヒル遠征費の足しにすることができました。
そう考えると、自分がブルベの運営をして、その経験や縁が、また別の自転車の思い出に繋がっていく。
そんな巡り合わせも、なんだか面白いものですね。
毎年参加できるかは分かりませんが、またいろいろな都合がついた時には、この特別な舞台に戻って来られたらと思います。
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