前日のツールドひたちなか2026第2戦。

1.5時間エンデューロの結果は2位だった。
0.1秒差。
たったそれだけの差と言えば聞こえはいいけれど、勝負の世界ではその0.1秒がすべて。
優勝していれば、翌日は自分へのご褒美として一日だらけるつもりだった。
何もせず、好きなものを食べて、ビールでも飲んで、勝者の休日を満喫する予定だった。
しかし結果は2位。
つまり敗者である。
敗者に休息はない。
というわけで、レース翌日に300kmブルベの試走へ出ることになった。
不思議と朝5時前には自然に目が覚めた。少しでも布団の中でまったりしたら、その瞬間に身体が休息モードへ移行してしまう気がしたので、考える前に起き上がる。
間髪入れずに着替え、自転車を準備して出発した。

今回はCARRERAを諸事情でバラしてしまっているので、ELVESのリムVANYARで出走する。
まずは朝食を取るためにすき家へ向かい、牛丼大盛に生卵と味噌汁を付けて補給。
前日のレースで空っぽになった身体に、強引に燃料を流し込む。
その後、図書館近くのセブンイレブンで補給食を買い、珈琲を飲んで一息つく。
時間もちょうど良くなったので、スタート地点の図書館へ向かった。
図書館までは自宅から基本的に下りなので、この時点ではまだ身体の重さを深刻には考えていなかった。
国道4号線を越えて白河羽鳥線へ入る。
すると、すぐに違和感が出てきた。
なんか調子が悪い。
疲れが抜けていない。
いや、抜けていないどころか、昨日の疲労がそのまま脚の奥に沈殿しているような感覚だった。
若干の向かい風も吹いているし、朝一だからこんなものかと思いながら進む。
珍しく平日に試走しているせいか、羽鳥へ向かう車は少ない。
天気にも恵まれ、道そのものはとても気持ち良い。
ただし、気持ち良く走れていたのはそこまでだった。
真名子川を越えて、本格的な上りに入る。
ここで一気に現実を突きつけられた。
まず進まない。
というか、クランクが回らない。
笑えるほどに脚が動かない。
羽鳥の上りでインナーローに入れるなんて、最近では記憶にない。
それでも今日は迷わずインナーロー。
脚は完全にスカスカだった。
ここでDNFして帰れば、まだ楽に家まで戻れる。
そんな考えが頭をよぎる。
実際、引き返すなら今だった。
ここから先へ進めば進むほど、戻ることすら難しくなる。
けれど、前日に負けている。
昨日勝てなかった人間が、今日も早々に逃げるのか。
そう考えた瞬間、撤退という選択肢は消えた。
敗者に撤退の二文字は認められない。
インナーローでダンシングし、死に物狂いで真名子峠を越えた。

峠を越えれば、しばらくは下りになる。
少しでも脚を回復させるため、普段よりかなり抑えて下る。
安息の時間は短い。
気付くとGARMINが左折しろとうるさく指示を出してくる。
分かっている。
自分で引いたルートだ。
そして、その左折の先に何が待っているのかも分かっている。
想像以上のアップダウンである。
塔のへつりが近づくと下り基調になるが、もう頭の中には帰りの上りのことしかなかった。

田島までのアップダウンは、いつもならインターバル練の延長のような感覚で抜けられる。
だが、この日の脚にはグリコーゲンが一切残っていない。
踏んでも反応が返ってこない。
体幹を使って踏もうとするが、すぐに脚が尽きる。
珍しく田島のセブンイレブンでは、駐車場に座り込んで補給をした。
ブルベ中に座り込むと、身体が完全に休憩モードに入ってしまうので、普段はあまりやらない。
それでも、この日は座らないと補給すらできなかった。
田島を抜けると、このルートで一番の上りが待っている。
だいくらスキー場まで上る、5.3km、獲得640mの短い坂。
普段ならアウターのまま走り切ってしまうような上りだが、この日は最初からインナーだった。
脚だけでなく、心もインナーである。
ところが、このあたりから少し感覚が変わってきた。
あまりにも疲れすぎて麻痺してきたのか、あるいは身体が諦めて順応し始めたのか、少しだけ調子が戻ってきた気がした。
駒止トンネルを抜けると、只見までは下り基調になる。
下がりまくっていたアベレージも26km/h程度まで回復してきた。
若干の向かい風ではあるが、下り基調のおかげでようやく進んでいる感覚が戻ってくる。
只見駅前で蕎麦でも食べようかと考えていたが、平日で休みだった。
今日も結局コンビニでパンである。
只見のコンビニでパンとプロテインを補給して出発する。
ここからは只見川沿いを気持ちよく進む区間だ。
去年は極寒の雨で、出力を下げたら生命の危険すら感じるような状況だった。
今年はその真逆で、気温はかなり上がり、30℃を超えている。
ただ、暑さに対しては意外と耐えられていた。
黒い袖と黒いグローブは黒いままなので、暑熱順化は良い感じに仕上がっているらしい。
炎天下では黒いグローブを使っていると、汗で失ったミネラルの跡が分かりやすい。
見た目は地味だが、補給判断には便利である。
それでも汗はかくので、定期的に自販機で補給する。
基本は麦茶。
ナトリウムが足りなさそうならスポーツドリンク。
少し疲れたと感じたら炭酸。
そんな感覚で飲み物を選びながら、金山を抜けて三島へ進む。
ここで持ってきたACTIVIKEのグランフォンドジェルを使ってみることにした。
ポケットに手を入れると、なぜかジェルらしきものが三つ入っている。
持ってきたジェルは一つだけだったはずだ。
不思議に思って取り出してみると、出走前にセブンイレブンで買った「一本満足バー チョコレート味」だった。
油断した。
自分は暑熱順化できているが、チョコレートにはその機能がなかったらしい。
完全にゲル状になった一本満足バーを、袋から絞り出して食べる。
不味い。
ただ、カロリーはカロリーだ。味覚よりも生存を優先して飲み込む。

なんだかんだで、その後は少し元気が戻ってきたようで、杉峠は難なく抜けられた。
問題は下りだった。
前回はディスクブレーキだったので特に何も感じなかったが、リムブレーキとカーボンホイールで下るとかなり気を遣う。
速度管理にも神経を使うし、腕も肩も疲れる。
途中で過剰積載のトラックとすれ違い、さらに集中力を削られる。
相変わらずドライバーは日本人じゃなかった。
脚、腕、肩をすべて使いながら峠を越えた頃には、さすがに身体が限界に近づいていた。
道の駅で食事にする。
塩分もかなり失っているだろうと思い、かけそばを選んだ。
温かい汁が身体に染みる。
こういう時のそばは、もはや食事というより回復薬に近い。
ここから先は、きっと追い風で戻れる。
そう信じていた時期が自分にもありました。
現実は甘くない。
風向きはランダムだった。
追い風になったり、向かい風になったり、横風になったり、とにかく忙しい。
細かいアップダウンも多く、すでにスカスカの脚がさらに削られていく。
田んぼの真ん中を走る、遮るものがない直線道路。
追い風なら最高の区間だ。
しかし今日は向かい風。
もう殿筋も使い切っていた。
とりあえずカフェインを入れるしかない。
ローソンでレッドブルを買って飲む。
成分表を見ると、カフェインは100mg程度だった。
普段から150~200mgのジェルを常用している身としては、少し物足りない。
翼なんて生えない。
追い打ちをかけるように現れるのが県道7号線だった。
磐梯町から猪苗代町まで、想像以上に上る。
とにかく上る。
ポジションを変えて大腿四頭筋を使ってみる。
文字通り速攻で使い切った。
もう使える筋肉がほとんど残っていない。
磐梯山が見えてくる。
きっとこいつのせいで向かい風になっている。
爆発しろ。
もちろん磐梯山は何も悪くない。
分かっている。でも疲労が極限に達すると、人は山にすら八つ当たりを始める。

猪苗代湖畔へ入る頃には、全身の筋肉をほぼ使い果たしていた。
残るは勢至堂峠と大信。
無心で猪苗代湖畔を通過する。
景色は綺麗だったと思う。
湖面も眩しかった。
ただ、疲れすぎていて感情が動かない。
今日のラスボス、勢至堂峠に差し掛かったのは18時頃だった。
まだ日は落ちていない。
なんとか勢至堂の下りは明るいうちに通過できそうだ。
ここは路面の状態が悪い上に、かなりスピードが出る。
暗くなってから下るには少し気を遣う場所なので、明るいうちに入れたのはありがたかった。
ただし、脚はもう終わっている。
下り基調なのにスピードが出ない。
その先の天栄の平坦も、本来なら気持ちよく速度を乗せられる区間だが、この日はただ耐えるだけだった。
日も暮れ始めたので、一旦セブンイレブンに入る。
パンとプロテインを補給する。
食べたいから食べるのではない。
食べないと進めないから食べる。
そして最後に待っているのが大信だった。
なぜへっこんでいるんだ。
ここが平らだったら、どれだけ快適だっただろう。
日も暮れて視界が狭くなっているのが、逆に救いだった。
登りの先を見ずに済む。
目の前の斜度だけを考えて踏む。
平坦ですらダンシングを使う状態だった。
もはや速く走るためではない。
座って回せないから立っているだけだ。
それでも進む。
少しずつ進む。
前日の0.1秒差が、ずっと頭のどこかに残っていた。
あの時、もう少し何かできたのではないか。
最後の位置取り、踏み出し、判断。
どこかに勝てる要素はなかったのか。
悔しさは、時間が経てば薄れるものだと思っていた。
けれど、300km走っても消えなかった。
むしろ疲れれば疲れるほど、その悔しさだけが妙にはっきり残った。
そして、四苦八苦しながらようやくゴールのセブンイレブンに到着した。

身体は完全に空っぽ。
脚も腕も肩も、全部使い切った。
それでも最後の力を振り絞って、Xにこう投稿する。
「制限時間ギリギリの13時間20分でゴールしました」
もちろん300kmなので全然ギリギリではない。
渾身のボケだった。
即座に「300kmだろう」と突っ込んでくれたマーボさん、ありがとうございました。
こうして、レース翌日の300kmブルベ試走は終わった。
正直、もう二度とやりたくない。
少なくとも、レースで負けた翌日にやるものではない。
けれど、走って良かったとも思う。
脚が終わっていても進める。
補給が崩れても立て直せる。
暑くても、向かい風でも、峠が残っていても、意外と人間は進める。
そして何より、負けた悔しさは走っても消えない。
消えないなら、次に勝つしかない。
もうレース翌日にブルベ試走をしなくても良いように、次は負けない。
内房にも、群馬にも勝つ。
そして次こそ、ちゃんと勝者として一日だらける。

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